大体の投資家のブログで一回は触られるテーマ、「効率市場仮説」についてお話します。
投資系の本でも大体半ページぐらいは触られるこのテーマですが、大体の場合説明に正確さが足りないと感じるので、ここでは私が正確と考える範囲で説明します。
少なくとも、効率市場仮説に従えば、投資家はマーケットに勝てないとか、インデックス投資が儲かるとか、そういうのは嘘です。
嘘というか、不正確です。自己の主張のために内容を若干歪曲していることは否めません。
目次
効率的な市場は存在しない
まず大前提として、完全に効率的な市場なんてものはこの世のどこにも存在しません。
これは観念上の存在に過ぎません。数学の問題を解く際に、紙の上に図形を描き、鉛筆で点や線を描いたとしても、それらは「面積を持たない」という条件を満たしてはいません。
ユークリッド幾何学的な直線や点は観念の世界にしか存在しないのと同様です。
効率市場仮説にはレベルがある
様々な市場が世の中に存在しますし、全世界のすべての商品を統合して一つの市場とみなすことも出来ますが、ここではとりあえず日本の株式市場を市場ということにします。
株式市場を含めた、ペーパーアセット(株、債権や、REITなどの証券化された現物資産のこと)の市場は概ね効率的であることに、大半の学者や関係者は同意するはずです。
ここまでは良いのですが、大体どの程度効率的かということについては、概ね3段階に分類されていて、そのうちのどれを支持するかは人によって多少違うはずです。
ウィーク・フォーム
チャート分析のような過去の値動きだけの分析から、継続的にマーケットをオーバーパフォームすることはできないという仮説。
テクニカル分析は勝てないが、ファンダメンタル分析で勝てると思っている人はこの仮説を潜在的に支持していることになります。
セミストロング・フォーム
チャートのような過去の値動きに加えて、公表されているすべての情報が証券価格に織り込まれているという考え方です。
この仮説を支持すると、ファンダメンタル分析でも継続的にマーケットに勝つことはできなくなるため、ベータ戦略(インデックス投資)を取る人は潜在的にこの仮説以上の効率性を支持します。
ストロング・フォーム
価格情報、公表情報に加えて未公開の内部情報もすでに証券価格に織り込まれているという考え方です。
この効率性が現実に存在すると、インサイダー取引を用いても継続的に市場に勝つことはできないとなるため、インサイダー取引が違法行為である必要はなくなるでしょう。
この仮説は、現実がそうなっているという人はまぁほぼ存在しないはずです。
インサイダー取引を行えば、まぁ勝てるだろうというみんなの想定があるから違法であり、証券取引委員会もそれを監視する役目を現実に負っているわけですから。
効率的な市場ならどうだというのか
まず第一に、効率的な市場であったとしても一時的にオーバーパフォーム(市場に勝つ)することはありえます。
ただランダムウォークする数値を相手にそれを行うことは結局コイン投げと変わらない、という話になります。
効率市場仮説を比喩的に言えば、利己的なみんな(マーケットの参加者)の合意の結果である市場は(平均的な個々の投資家より)賢いという仮説です。
簡単に言えば現在の商品価格(株価)にはあらゆる情報が即座に織り込まれているので、投資家が市場平均(市場の平均的な成長率)を上回るのは難しいという仮説。
基本的に概ね正しいとはだいたい専門家も考えていますが、その程度はセミストロングフォーム以下の効率性とみなすべきでしょう。
ちなみにこの立場をとって投資するなら、
一方でリアルな話を言えば、効率性は各銘柄によって違っていて、株式なら大型株ほど効率性が高いと見るのが妥当でしょう。
これは流通量の大きい大型株ほど分析するプレーヤーも多く、価格合意形成にたくさんの情報が織り込まれるからです。
一方でほとんど商いがなされない小型株は、価格と価値の差が放置される可能性が比較的に高いです。
実務的に言えば、流動性が低く流通量が小さい銘柄は大きな資産を運用する機関投資家などは扱いにくいですから。
この辺の事情が小型株アノマリー(小型株は大型株よりも収益率が比較的高くなりやすい傾向があるという経験則)につながっていると推測されていますが、効率性が低いということは割高が解消されずに残っている可能性も当然にありますので「小型株は分析して勝てる確率が大型株に比較して理屈上高い」ぐらいの理解でいいと思います。
ファイナンス理論は自分の投資スタイルを決めるのに役立つ
ファイナンス理論を学ぶことは、現在の投資環境を俯瞰して見ることに繋がります。
その際に自分が市場をどう理解しているのかということと、投資行動には一貫性がなければ、判断基準がブレブレになるため、まず勝つことはできないでしょう。
今回の話で言えば、市場が効率的だと思っているのにテクニカル分析で投資行動を行うのは理に適っていません。
投資で市場に勝つには、他のプレーヤに比べて「優位性」を築くことが大切ですが、市場が効率的だと信じている人は優位性を発掘することはないでしょう。
信じれば勝てるって話ではないんですが、自分の中で勝つための条件をちゃんと揃えるには、そのあたりの積み上げを理に沿って行うことが肝心です。